親が苦手で実家が嫌いな妊婦が1人で帰省したら大ダメージだった話
父親の部屋に入った途端、足が止まった。
テーブルの前に、父が座っている。父の前に座らないと、会話しないと。そう思うのに足が進まない。部屋の入口から一歩入ったところ、これ以上進めない。身体が固まった。
「元気?」なんとか言葉をひねり出す。父がうなずく。
「赤ちゃんできたんだってね」父が言った。
それを聞いた瞬間私はもうだめだと思って、ろくに答えず部屋を出た。涙があふれてきた。
気持ち悪いと思った。父を、自分を。嫌悪感と罪悪感があふれて止まらなくなった。あんなに軽蔑していたこの家の遺伝子を残してしまった、父に孫を作ってしまった。
いつもは、夫と一緒に実家に帰っていた。父と話すときも、夫が横にいてくれて、私は「よその子」になれた。けどあの日は一人だったからか、「この家の娘が子供を産む」と自覚してしまって、急激に怖くなった。
車に戻って、しばらく泣いていた。同乗していた義理の母に「どうしたの?」と聞かれたが、「父に妊娠おめでとうと言われて、いろいろこみ上げちゃって」とごまかした。「それは感極まるよね!」と言ってた。
色々あったのは、もう10年以上も前のことだ。辛い思い出に浸りたくはない。実の親が苦手な子供くらい沢山いる。必要最低限のコミュニケーションでいい。本当にそう思う。
もし今親が亡くなったらどう感じるだろう?もっと話して分かり合えばよかった?もっと知りたかった?私のことをどう思っているか聞けばよかった?昔父が脳出血で倒れた時はそんな風に後悔した。でも今はどうだ?もしかしたらもう何も期待しなくていい、もう後戻りはできないから自分のことだけ考えよう、って思わなくもないかも。
実家に帰って、親と一緒にいることが、今の私にとって癒しにはならない。感情がかき乱されて、自責で辛くなる。帰らないといけない義務なんてない。子どもが生まれても、見せに行かないといけないなんてことない。私が帰りたくなければ、それでいいや。
この子は、私と夫の子だ。確かに、私の遺伝子が半分入っているんなら、私の実家の遺伝子だってもちろん入ってるだろうけど。けど、半分は夫の。新しい生き物に違いない。あ~~~でもやっぱり、夫の遺伝子100%で生まれてきてくれたら~って思っちゃうなぁぁ。
娘よ、もし私の遺伝子を恨むときがあったら、本当にすまん、大好きな夫の子を産みたいっていう私のエゴだ。もし恨んでるなんて言われたら、その時は謝る。
それはそれとして。今はまだ、言われたわけじゃない、これは私の妄想。いつものネガティブモンスターの仕業。よし、とりあえず今は、まだお腹にいるこの子をとことんかわいがろう。